アプリの中身が、ようやくかたちになった。僕のアプリは、画面としてはもう完成していた。何をするアプリかは——公開してからのお楽しみ、ということで、ここでは伏せておく。
でも、スマホのホーム画面にずらっと並んだアプリたちを見て、僕はふと気づいた。うちの子だけ、顔がない。
正確には、Capacitorという道具でアプリ化したときの、初期設定のままのアイコン。のっぺりした四角に、そっけないマーク。GmailやChromeみたいな、ひと目で「これだ」とわかる顔が、僕のアプリにはまだなかった。
そこで、相棒のクロ(僕がAIにつけた呼び名。うちの黒猫ジジが由来だ)に相談してみることにした。

「ゼニゲバっぽいのは、なんか嫌なんだよね」
アイコンを作ってもらうにあたって、クロはまず方向性をいくつか出してくれた。時計とコインを組み合わせた案、家事モチーフにコインを添えた案、円マークを抽象化した案……。
どれもよくできていた。でも、コイン——お金のモチーフを見た瞬間、僕はちょっと引っかかった。
このアプリで伝えたいのは「あなたの時間には価値があるよ」ということであって、お金でガメつく煽るような話じゃない。アイコンにお金マークがドンと出ていたら、そのニュアンスが濁ってしまう気がした。
正直にそう伝えてみた。「ゼニゲバっぽいのは、なんか嫌なんだよね。家事と時間、でいいんじゃない?」
するとクロは、あっさり方向転換してくれた。
いいセンス。このアプリの本質は「お金儲け」じゃなくて「自分の時間を大切にしよう」というメッセージだから、家事+時計のほうが優しくて共感を呼ぶ。じゃあ「家事+時計」で、色はアプリと同じ深い緑ベースでいくね。
この、「わかった」と言ってすぐ切り替えてくれる感じが、AIと一緒に作るときの気持ちよさだと思う。人間の外注さんだったら、こんなに気軽に「やっぱりお金マークやめて」なんて何度も言えない。でもクロ相手なら、遠慮なく本音を言える。
ほうきが「きのこの山」になった
方向が決まって、クロが何案か描いてくれた。時計と、ほうき。深い緑の背景に、白い時計。うん、いい感じだ。家事と時間が、ちゃんと伝わる。
ただ——ひとつだけ、どうしても気になるところがあった。ほうきの毛の部分。三角形にキュッとまとまっていて、どう見ても、あのお菓子の「きのこの山」に見えるのだ。
「ほうきがね、きのこの山みたいになってる。もっとほうきっぽくして、もうちょっとでかくしてもらっていい?角度はいい感じ」
笑いながら注文をつけると、クロも笑って(たぶん)描き直してくれた。
確かに、今のほうきは毛の部分が三角形すぎて「きのこの山」に見える(笑)。もっとほうきらしく、毛が広がって房っぽくなるように作り直すよ。サイズも大きくして、角度は今のまま(いい感じって言ってくれたやつ)キープする。
今度は、毛先が房のように広がって、細い縦線が入って、ちゃんと「ほうき」に見えた。きのこの山は、無事にほうきへと進化した。

「もうちょっと上」「もうちょっと大きく」の往復
ここからは、細かい調整の連続だった。
「時計を真ん中に持ってきて、もうちょっと大きく」「ほうきを手前に重ねて」「もうちょっと上に」——。僕が言葉で伝えるたびに、クロがすぐに描き直す。その場で、何パターンも見比べられる。デザインの知識がまったくない僕でも、「あ、こっちのほうが好き」と選ぶだけで、少しずつ理想に近づいていく。
面白いのは、僕は一度も「ペンツール」も「レイヤー」も触っていないことだ。ただ、頭の中にあるイメージを言葉にして、クロに渡す。それだけ。まるで、腕のいいデザイナーの隣に座って、「そこもうちょっと大きく」「うん、それ」と口で言っているだけで、絵が仕上がっていくような感覚だった。
そして、ついに——深い緑の背景に、中央に大きな白い時計、その手前に金色のほうきが斜めにかかった、僕だけのアイコンが完成した。
ホーム画面で、うちの子が一人前になった
完成したアイコンを、実際にアプリに組み込む作業も、クロが手順を一つずつ案内してくれた。画像を所定のフォルダに置いて、コマンドをいくつか打つだけ。すると、スマホ用のいろんなサイズのアイコンが、一気に自動生成された。おまけに、アプリを起動したときに一瞬出る「スプラッシュ画面」まで、同じ緑のデザインで作られていた。
反映して、エミュレータ(パソコンの中で動くスマホ)のホーム画面を開いてみる。GmailやMaps、Chromeがずらりと並ぶその一角に——緑の時計とほうきのアイコンが、ちゃんといた。
他のGoogle製アプリと並んでも、まったく見劣りしない。ついさっきまで「顔なし」だったうちの子が、一人前の顔をして、そこにいる。この瞬間は、ちょっと感動した。
アイコンなんて、アプリの機能から見れば「おまけ」かもしれない。でも、この小さな顔があるかないかで、「作りかけの何か」が「ひとつのアプリ」に変わる。名前をつけて、顔をつけて、ようやく僕のアプリは、世に出る準備ができた気がした。
ちなみにこのアイコン作りの間、うちの姫・ジジは、パソコンに向かってブツブツ喋る僕を、不思議そうな顔で見ていた。自分の名前(クロ)の由来になった張本”猫”に見守られながらの、アイコンづくりだった。
次回は、いよいよこのアプリを世に出す——Google Playで公開しようとして、思いもよらない「壁」にぶつかった話を書きたいと思う。


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